橋本順一の哲学

芸術、科学、哲学、政治、経済、健康、恋愛、娯楽など、様々な分野において、思いついたことを綴る「ひらめきエッセイ」です。

ピンポン!【加藤の乱】

 都内某所の、とあるテレビ局のスタジオに、たくさんの人が集まっていた。

 彼らは、或る番組の撮影のために、そこへ来ていた。

 その番組は、❝クイズ王❞たちが頂上決戦を繰り広げる、グランド・チャンピオン大会の開催場だ。

 広いスタジオの一角に雛壇形式で席が複数設けられており、解答者たちがそこへ座っている。

 解答席は1人につき1個与えられている。

 会場全体もそうだけれど、雛壇にも、そして解答席にも、夥しい数の電飾が施され、派手に点滅している。

 ステージから1段低い、しかし十分に広いフロアーには、大勢の聴衆たちがひしめいていた。

 番組そのものを色に喩えるなら、黄色とか、オレンジとか、ゴールドといった、とにかく派手で、エネルギッシュな感じの色彩が当て嵌まるだろう。

 

 盛り上がりそうな予感があった。

 

 やがて、収録が始まった。

 黒のタキシード姿の、日本人なら誰もが知っている有名司会者が、司会用の席に着いて、マイクに顔を近づけ、高らかに、開会の宣言をした。

 大音量でBGMが流れ、電飾が高速でフラッシュした。

 

 クイズは、早押し形式で競われる。席に備え付けられたボタンをいち早く押した者に、優先的な解答権が与えられる。ボタンを押した際には、クールで、非情とすらいえる、涼やかな電子音が、ピンポン!と鳴る仕組みになっている。

 雛壇に居並ぶ解答者たちは、唇を真一文字に結び、眉間に皺を寄せ、一点をじっと見つめながら、緊張しているような、シリアスな表情をしていた。

 その中に、暫定王者がいた。

 彼は、このメンバー内で最も強い、との評判だった。

 司会者さえ、彼には一目置いているらしい。時々、彼をチラ見するかのような仕草をする。

 

 クイズが、始まる。

 

 司会者が、雛壇を眺め回すようにして、問う。

 「第1問です。2000年に、政界を揺さぶる或る事件が起こりました。自民党所属の衆議院議員加藤紘一氏が、内閣不信任案を出そうとしたものの、未遂に終わった、というこの出来事・・・。事件名でお答えください。何と言う・・・」

 

 ピンポン!

 

 会場内に、電子音が鳴り響いた。それは、暫定王者によるものだった。

 一目置いているだけあって、すぐに司会者は反応した。

 

 「はい、暫定王者さん、どうぞ。」

 

 王者は、真剣そうな顔で、声を張り上げた。

 

 「サトウのごはん!」

 

 「加藤の乱だよ!なんで事件名がサトウのごはんなんだよ!違うでしょーよ!思わず司会者が答えを言っちゃったよ!・・・ったく、もう、気を取り直して、次の問題にいきますからね。」

 苛立ったような面持ちで、司会者は王者を睨む。

 

 「では、第2問です。その、加藤紘一議員の高校時代のクラスメートで、1987年にノーベル医学・生理学賞を受賞した日本人科学者の名前を何というでしょうか?今度はヒントを出します。❝〇〇〇〇ススム❞。なにススムというでしょう?」

 

 ピンポン!

 

 「はい、王者さん。」

 

 「ごはんがススム!」

 

 「お前ごはん好きだなっ!そうじゃねーよ!利根川進だろうが!❝世界のトネガワ❞だぞ!お前、よくチャンピオンになれたな・・・。」

 

 解答者陣は総立ちで、拍手したり、声援を送ったり、口笛を吹いたりして、王者を囃し立てた。

 会場の観客は、ヒューヒュー湧いていた。

 電飾が眩しく煌めいていた。

 

 

 世界はゴールドに染まっていた。

 

 

 

 

 

 *************************************

 

 

 

 

 

 ◙こちらもぜひ、ご参照ください。

 

hirameking.hatenablog.com