橋本順一の哲学

芸術、科学、哲学、政治、経済、健康、恋愛、娯楽など、様々な分野において、思いついたことを綴る「ひらめきエッセイ」です。

笑いのコンビネーション

 いまから20年くらい前の経験をお話しします。

 親戚の子供(3歳児)を、私が笑わせたという、ただそれだけのエピソードなんですけれどね。

 私と彼とで、部屋に2人でいたときに(テーブルを挟んで向かい合って座っていました)、風船があったので、ふと、私がそれを手に取ったんですけれどね。

 真っ赤な、かわいらしい、小さな風船でした。

 それで、私は、真剣な顔をして、それを中空へ目掛けてトス・アップしました。

 やがて風船は、重力に従ってゆっくりと、落ちてきました。

 空中の風船を見据えながら、私は右腕を振り上げ、まるでバレーボールのスパイクを放つかのように、大袈裟にそれを打ち抜くジェスチャーをしてみせたのでした。

 

  そのうえで空振りしました。

 

 そして私は、目を丸めつつ、さも不思議で仕方がないといったような表情を浮かべながら、顔を左右にきょろきょろと動かして見せたのでした。

 あとには、落ちた風船が、ただ床上を転がるだけでした。

 

 もう、子供、ゲラゲラ笑っちゃって。

 

  私は再び、風船を拾い上げ、もう一度、トス・アップしました。そして、また、バレーボールのアタックの要領で、それを打ち抜こうとしました。

 もう、お判りですよね?

 そうです、空振りです。

 

 子供は、またゲラゲラ笑ったのでした。

 

 とまあ、こういうような経験を私が昔にしたという、そういう話なんですけれどね。

 それで、その時思ったのが、これくらいの幼い子供でも、物事の成り行きというか、筋道みたいなものを、きちんと理解できているんだなあ、ということでした。

 事の次第を判っているからこそ、こちらがボケをかませばおかしくて笑うんだなと、しみじみ感じたものでした。

 

 この点、こういう実験があります。

 人が笑った後の、脳の血流量を調べる、というものです。

 その結果、大脳辺縁系*1を中心として血流量が増えることが、判ったのだそうです。

 それに鑑みれば、笑いというのは、本能から生み出される原始的な感情に近いものである、ということになりそうです。

 しかし、もし、笑いが感情(本能)なのだとすると、動物だって笑う筈であるけれど、実際笑うという行為をするのは人間だけであるから、笑いは、理性が生み出す高度な情報処理の結果であると、いえるんじゃないでしょうか。

 それは、論理的に考えれば、明らかでありましょう。

 そもそも、人はなぜ笑うのかというと、「おかしい」から笑うのです(より正確にいうと、おかしさを是正されたときにカタルシスで笑う、ということになります)。

 じゃあ、「おかしい」のはなぜかといったら、それは、「本来の道筋からズレているからだ」ということになります。

 そうであるなら、笑うためには、道筋を理解する能力、すなわち「論理的思考力」が必要である、ということになりましょう。

 つまり、大脳新皮質*2(とりわけ前頭前野*3)の働きなくして笑いは生まれえない、ということなんですね。

 前述の実験は、あくまでも笑った後の状態を調べただけであり、笑っている最中にリアルタイムで測定したわけではないから、必ずしも「本能説」を裏付けているわけではありません。

 やはり、笑いは、「理性」から生まれるものだと、考えるのが妥当でありましょう。

 人を笑わせるということは、或る意味、骨の折れる営みです。

 面白いことを考えるにも、労力がかかります。

 「理性」から生み出されるものだからこそ、「生みの苦しみ」が伴うのですね。

 笑うということも笑わせるということも、どちらもエネルギーを要することであり、それはまさに「努力の賜物」だといえましょう。

 笑うことの医学的効用はいろいろといわれているけれど、若々しさをキープしたり、幸せな気分を味わえたりすることができるのは、努力、つまり「手間暇のかかること」をやった❝ご褒美❞がもらえるからなのです。

 

 笑いとは努力したことに対する「報酬」なのであります。

 

 だからこそ、脳内麻薬物質(報酬系であるβ-エンドルフィン、ドーパミンなどの神経伝達物質)が分泌されるのですね。

 笑いは、そのように頭を使って努力したときに、ご褒美として与えられる喜びの感情なのです。

 まあ、要するに、ゴール時点では「本能」だとしても、スタート時点では「理性」に基づいていることだけは、間違いなさそうです。

 

 笑いは、「理性」から始まって、「本能」で終わる。

 

 そうした「理性➔本能」のコンビネーションさえ実現できれば、たとえ3歳児が相手であっても、十分に笑わせることができるのです。

 

 笑いの生みの親は、「理性」なのであります。

 

 

 

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 「笑い」というテーマに関する記事を、いくつかご紹介しておきます。

 

hirameking.hatenablog.com

 

 

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*1:本能を司る、原始的な脳部位のことです。爬虫類脳とも呼ばれています。

*2:理性を司る脳部位のことです。

*3:脳の司令塔の役割を果たす部位です。創造力の源であるとされています。